『OVA:ブラックジャック「カルテ9 人面瘡」』【感想】BJでも難しいこと

 

OVAブラックジャックシリーズ9作目です。

動画のサムネがBJの顔が黒く塗りつぶされて暗い雰囲気を晒しだしており、他のシリーズでも同様、今作も濃いテーマを扱っていたと感じます。

 

以下ネタバレあり感想です。

 

 

 

 

<作品紹介>

制作年  2000年

原作   手塚治虫

監督   出崎統

ジャンル アニメ・医療

 

 

キャスト

都築耕一郎(CV:堀秀行

種田(CV:麦人

魔知子(CV:荘真由美

ジュン(CV:佐々木望

柳子(CV:定岡小百合

人面瘡(CV:内田直哉

 

 

あらすじ

様々な業種を取り扱う総合商社・都築財閥の社長・都築耕一郎から依頼を受けたBJ。助けを求める耕一郎の腹にあるのは人面瘡、人の顔の形をした物であった。BJは屋敷の最新設備が整った場所を活用し、症状の研究を始める。一方、警察は殺人事件を捜査しており、不可解なことが出てきていた、、、。

 

 

 

<感想>

 

社会が生み出したとされる症状とトラウマを負った心

ここでいう社会はBJのセリフより「高度にストレス化した社会」を指します。高度にストレス化したとは、いわゆるインターネットが発達し、世界の誰とでも繋がれることが出来るが、それだけ自身の関わる量が多くなると同時に様々な情報が入ってきて情報過多になることを意味すると思われますが、今回の場合は、社会が発達し企業や個人が生き残るには競争が激しくならざるを得ないと捉えます。症状に関しては解離性同一性障害を指します。かつて多重人格障害と呼ばれ、自分以外の人格が存在することであります。

 

上記の社会と症状を順番に見ると、社会が高度に発達または複雑化しよりストレスを受けるようになったと考えます。

 

本編でもある通り耕一郎が父親から跡継ぎになるように厳しい教育を受けて、我慢しつつ耐えていました。そして母親が強制的に離縁させられことがきっかけとなりトラウマになりました。個人の自由が束縛され生きる道を強制され、耕一郎の希望である母親がいなくなって絶望したと言えるでしょう。

 

このように耕一郎は精神障害を患いましたが、ひとつの例だと捉えるべきかもしれません。厳しい教育でなくとも教育を受けさせてもらえない、母親でなくとも他の大切な人とも別れであっても、可笑しくはないと個人的に思います。また精神障害もひとつだけではないことも然り。

 

可笑しくはないとすれば、高度にストレス化した社会が生み出す様々な症状は、社会の発達によっても発生するなら、今後増えていくかもしれないとするとゾッとします。ただ時代が進めば治療も発達することも考えられそうです。

 

 

 

心に潜む影

耕一郎が今まで、父親によって母親から離され、愛に裏切りがあってはならない強迫観念から、家族を裏切る人を殺めてきました。必然的に警察に追われるようになります。そして別人格がずっと行動していましたが、耕一郎は疲れ果てもう終わりにしようと刃物を持って刑事に突っ込んでいき被弾します。

 

問題は、犯した罪や人を攻撃する人格が耕一郎ではないことや精神的に追い詰められた経緯に注目することになりそうです。ただ、別人格が犯した罪とは言え一方的に悪いと決めつけるのは早計ですし、そもそも何が悪いのかと決めるのも違ってきます。

 

また、精神的に追い詰められる経緯とは、前述の耕一郎が父親に厳しい教育と母親との強制的な離別になります。ここでは父親が悪い印象を抱き、厳しい教育に着目しそうですが、教育自体ではなく、支配的構造が耕一郎の心を暗くしてしまうと考えられます。その構造と同時に母親との理不尽な離別が大きなきかっけとなるのは本編より明らかでしょう。父親コノヤローって感じです。

 

 

 

耕一郎とは別人格の話

耕一郎の内面に存在する人格が、耕一郎を除いて3人いたと見ています。1人目はジュンです。彼は離別した時に母親が乗っていた車があり、その車を破壊することで母親を取り戻せると思い行動します。2人目が柳子(りゅうこ)です。彼女は父親が身勝手に母親と離縁したことに対する愛の裏切りを許さないことから、対象の人間を殺害します。そして3人目は人面瘡です。特に名前を明かされることはありませんでした。ただ、耕一郎の前に初めて出てきた時、「まかせろ」と言いました。

 

ここからは想像ですが、耕一郎の代わりに動いてくれたり、ジュンや柳子の司令塔のような役割をしていたのではないかと考えます。耕一郎の姿形が変わるたびに出てきたり、ラストシーンの疲れてしまったからもう終わりにしようとして、人面瘡という人格が代わりに行動したと感じます。

 

 

 

自信のないBJ

人面瘡と精神障害に対峙するBJが、もしかしたら初めて自信がないと吐露した気がします。珍しいところを目撃した感じです。「如何に賢明なメス捌きをもってしても、人の心の奥まで切れない」物語終盤でBJが語ったことでした。今回のテーマともいえる精神の病は、患者を救うのに大変であることは推し量らずとも察しがつきそうです。

 

 

 

さいごに

今作のOVAブラックジャックは特に暗い印象を抱きました。だからこそなのかピノコが何度も明るく歌を歌うのは、暗くなるだけにしない制作側の意図かもしれませんね。

また扱った病が精神に関わるものだったので、現代に通ずるというか濃い内容を味わった感じがありました。

気持ちが暗い感じでになりますが、作品として面白く良かったです。

 

 

以上

 

 

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