前回、映画「終わらない週末」を観た際、マハーシャラ・アリが出演していました。
その彼の演技が良かったので、出演の関連として本作を視聴。
主にヒューマンドラマの物語が展開されており、心が温かくなったり、緊張でドキドキする場面が良いなと感じます。
ただ、人間模様があるだけでなく、映画でよく見かけるような社会テーマの人種差別や物語のメイン話である”存在”について心に刺さる映画だと思います。
以下ネタバレありの感想です。
<作品紹介>
公開年 2018年
監督 ピーター・ファレリー
ジャンル ヒューマンドラマ・アメリカ映画
キャスト
トニー・ヴァレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)・・・ナイトクラブの用心棒
ドクター・ドナルド・シャーリー(マハーシャラ・アリ)・・・クラシックなどのピアニスト
ドロレス・ヴァレロンガ(リンダ・カーデリーニ)・・・トニーの妻
あらすじ
ナイトクラブの用心棒をするトニーはクラブの改修工事のため、他の仕事を探す。そこでドクター・シャーリーと名乗るピアニストの用心棒をすることに。アメリカ南部を周る二人の旅が始まる。
<感想>
旅する二人の温かく面白いドラマ
本作「グリーンブック」は1962年、トニー・リップとドン・シャーリーがアメリカ南部を旅する実話を基にした映画です。
”グリーンブック”とは、アメリカ南部を旅する黒人のためのガイドブックとして作られ、また60年代はキング牧師が活動していた時代でもあり、人種問題に触れる作品となります。
こうした社会テーマを扱う作品は、どこか暗い雰囲気を出すものと思いきや、登場人物らによって、シリアスになり過ぎず、明るい友情ドラマが展開され、楽しく観ることが出来ます。
そして内容が用心棒のトニー・リップ、ピアニストのドン・シャーリーの姿が興味深いところです。いわゆる凹凸コンビと言うのでしょうか。他作品だと映画「ジョニー・イングリッシュ」のジョニーとボフやアニメ「ブラックジャック」のブラックジャックとピノコといった具合かなと。(例えが微妙なのは否めない)
ドン・シャーリーは教養や品性があり、上流階級に見合う姿の一方で、トニー・リップは言葉使いが汚く、性格も荒い人物です。
そんな正反対の二人が徐々に仲良くなっていく様子は魅力的ですが、個人的にはその正反対の二人が織りなす描写がお気に入りです。やること成すことがズレまくり、叱られたり、注意されたりと一見しょうもないことでも笑いのツボに刺さる感じが良いですね。(フライドチキンのシーンとか)
ここまでの違った人物を描写するにあたって、本作のメインの話である友情ドラマが効いているのだと思います。人種も性格も生まれも違うとする二人が旅を通して、人に対する考えを改める”変化”があり、見た目や偏見を越えた”繋がり”が描写され、また制作陣もそう表したのではないでしょうか。
差別と信念、そして存在の話
前述の明るい部分とは変わって、暗く感じる部分である人種差別の話が語られます。本作においてドン・シャーリーはその扱いや見る目を感じさせる表現があり、ピアニストとしてアメリカ南部を周り、各地で演奏を行う度に出来事が起こります。
ただ、今回注目する点で、差別と戦う姿もありますが、ドン・シャーリーが信念を持っていることが分かります。それはアメリカ南部を旅と演奏する理由にも繋がり、人々に勇気を与えるであったり、トニー・リップに言われた”自分にしか出来ないこと”をする部分は感慨深いです。
お金を稼ぐだけではなく、差別に負けず人々のために演奏する信念が、彼を動かす原動力になっていると思います。
しかし、ドン・シャーリーにも悩みがあります。ここが他作品と違いを示す部分ではないかと。結論から書いてしまうと、彼は孤独感を抱えています。仕事柄、上級階級の人たちと接するので黒人の仲間に入れず、白人として安心して生活が出来ない、”人の在り方”が問われます。
つまり、自分で自分の在り方が決まるのではなく、世の中が在り方を決めてしまう理不尽な姿が描写されます。このあたりは本作を観ていて、予想もしませんでした。
今まで観てきた差別のテーマを持った作品は、差別する側と差別される側の両極に分かれる形があります。向こうが悪い、どうにかしたいと表現されているのに対し、ドン・シャーリーはその両極以外を表したことで、ある意味新鮮さを感じ、筆者の視野の狭さを痛感します。
本作「グリーンブック」は上記の内容から、視野を広めるという学びの要素があると思います。テーマを持った側面とロードムービーの側面が上手く合わさった、多くの人が鑑賞出来るものですね。
鑑賞後、不勉強と思ったこと
映画を観終わって記事を書くために、映画サイト等で調べていると、ある事を知りました。それは「白人の救世主」というもの。物語の構造についてです。
白人の救世主とは、非白人の救済者として描かれる白人の批判用語です。他の作品を挙げてみますと、「しあわせの隠れ場所」で白人家族に育てられた黒人の子が成功する話。
”白人に助けられる”ことで”非白人が助かる”構造またはイメージが批判の対象となっています。本作「グリーンブック」においてもトニー・リップに助けられドン・シャーリーが助かった場面があるにはあるので、声を挙げているのかと。
おそらくですが、白人に助けられたといって全て彼らのおかげではなく、自分たちも頑張っている意見があるかもしれません。そもそもどちらが優れている話ではないと思いますが。
また、この”助けた”や”助けられた”以外にも通づるところが劇中であります。人の見え方として、全ての人が同じ状況にあるわけではない話です。
例のフライドチキンのシーンで、黒人全員がフライドチキンを好きではないことが語られます。つまり、一緒くたに考えるのは良くなく、それぞれの違いを分かっていく必要があるメッセージが存在します。
こうした批判が起こる背景には、映画の人気がひとつ関係すると思われます。1990~2000年代初期、「白人の救世主」物語が広く利用され、人気がありました。人気があった理由として考えれるのは、アメリカ人が異なる人種の人たちと触れ合う機会が少ないこと。少ないために実生活にはない体験を映画を通して経験していたのではないか、、、
上記の内容が正確かは兎も角、結果として娯楽である映画から社会テーマを伝えるものがありつつ、捉え方として人の優位性という勘違いが起こったと見れるでしょうか。
まあ色々書いていますが、簡潔すると人種の問題に首を突っ込むと簡単な話では終わらないと思います。それに、映画は商売ですから売れない事には意味がないので、全ての内容をすくい上げるのは難しい気がします。
なかなか馴染みがない話ではありますね。映画やニュースで白人と黒人の対立みたいなものはあります。しかし、「白人の救世主」物語の批判のように、人がどう受け取っているのかを分かるには、問題になってから気づくため、本作によって知れたのは始まり過ぎないですね。
さいごに
全編を振り返って、明るめの内容ではあるものの記事を書いていると段々と暗い感じになりましたが、個人的には楽しく観れたので良作です。ラストシーンもハッピーエンドですし。
物語の批判的になる話では、賛否両論があると記載しました。ただ、問題視される映画がなくなってほしくはありません。映画を通して知れるのは確かですし、規制をかけまくると、それはそれで面白くないです(娯楽を楽しむ意味で)。
過剰になりすぎない程度に映画を観れていければ良いですね。
以上
<参考>